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研究概要

皮膚幹細胞の不思議を解き明かし、老化制御や再生医療の新たなステージへ進む

 

組織幹細胞は、生涯にわたって自分自身を維持しながら、分化細胞を作り出す能力を持つ特別な細胞です。このような細胞が、私たちの体の中の色々な場所に存在するので、古い細胞が失われても、日々新しい細胞を作り出すことができます。一方、幹細胞は高い増殖能を持ち、かつ組織の中で最も大元となる細胞なので、これに異常が現れると、組織は正常に機能することができなくなり、がんや老化、各種疾患を引き起こす原因ともなります。私たちは、そんな不思議な組織幹細胞の実態を探るべく、マウスやヒトの皮膚をモデルに研究を行っています。

古典的なモデルにおいて、組織幹細胞は、分裂頻度を低く抑えることで、DNA損傷・テロメア短縮等の影響を最小限にし、老化を防ぐと考えられてきました。しかし私たちは近年、マウス表皮においては、分裂頻度の低い細胞だけでなく、活発に分裂する細胞も、長期的な幹細胞として働くことを発見しました(Sada et al., Nat Cell Biol 2016)。このような分裂頻度の異なる2種類の幹細胞は、表皮の異なる領域に、とても美しい規則的なパターンを作って局在していました。これらの表皮幹細胞は恒常状態では独立して働きますが、損傷に応じて、互いの機能を一過的に補完する可塑性を持つことも分かりました。

 

現在は、以下の問いに答えるべく、研究を進めています。

  1. マウス表皮幹細胞のモデルは、ヒト表皮や他の上皮組織にも当てはまるか?

  2. 2種類の表皮幹細胞は、どのように制御されているのか?

  3. より早く分裂する幹細胞は、より早く老化するか?

  4. 2種類の表皮幹細胞が存在する生物学的意義は?

  5. 発生過程で、いつ、どのように2種類の表皮幹細胞が形成されるのか?

  6. In vitro皮膚モデルの中で、不均一な表皮幹細胞やニッチ環境を構築することはできるか?

  7. 表皮幹細胞や皮膚老化に特異的なバイオマーカーは?

 

表皮幹細胞の特性や制御機構の解明は、再生医療への応用や、皮膚疾患、老化の制御へとつながることが期待されます。マウスで見つかった表皮幹細胞マーカーは、ヒト皮膚においても類似の発現パターンを示すことも分かりつつあり、マウスからヒトへと橋渡しする重要な基礎研究と考えています。

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皮膚老化プロジェクト

表皮幹細胞の老化プロセスの包括的理解:分裂頻度の異なる幹細胞に着眼して

 

いつまでも若々しく、健やかに生きることは、人類の長年の願いです。皮膚は、外部刺激や異物の侵入から体内を保護するとともに、生体と外部とのインターフェイスとして機能します。表皮のバリア機能は加齢とともに低下し、刺激に弱くなり、乾燥や炎症が起こりやすくなります。皮膚は加齢の影響が外観にも現れやすいことから、一般的にも老化に強い関心が持たれる組織です。このように皮膚老化の制御は医学的・社会的観点から急務ですが、皮膚老化を引き起こすメカニズムの真の理解には至っていません。

 

私たちの研究では、加齢に伴う幹細胞の機能低下、幹細胞の老化(ステムセルエイジング)の現象を表皮幹細胞の分裂不均一性の視点から解明していきます。​ステムセルエイジング、そして皮膚老化が起こる原因を細胞・分子レベルで理解することで、老化制御の新たなストラテジーの創出を目指します。

 

将来的には、医療シーズ・社会貢献の観点から、以下のような成果が期待されます。

  • 高齢者で見られる皮膚、口腔、眼の各種トラブル(乾燥、炎症、脆弱性等)や加齢関連疾患に対する原因究明と幹細胞レベルでの治療介入

  • 組織・幹細胞の老化度を測定するための分子マーカーの確立による予防医療への貢献

  • 科学的なエビデンスに基づいたアンチエイジングサプリメント、化粧品等の開発

  • 年齢による幹細胞の品質のばらつきを管理・抑制し、より安定した再生医療を実現

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皮膚発生・再生プロジェクト

三次元的に組織構造と幹細胞局在を捉え、新しい皮膚モデルを開発する

 

皮膚は​、高い再生能力を持つ臓器であり、自家培養表皮を用いた熱傷治療は、再生医療の先駆けとなりました。しかし、臨床的な有用性が示されているのは、皮膚の表層にある「表皮」の再建にとどまり、複雑な皮膚の構造や機能を再生することは未だ困難です。私たちはこれまでに表皮幹細胞集団がヒト皮膚においても不均一性を示し、高度に領域化して局在することを見出しました。本研究では、皮膚構造―幹細胞局在を三次元的に捉える独自の視点から、in vitro皮膚モデルを構築し、その評価指標を確立することで、次世代皮膚再生医療へ向けた基盤を創出します。本研究の成果は、より生体に近い環境を模した皮膚培養系の確立へとつながり、臓器移植や創薬プラットフォームとしての利用が期待されます。

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糖鎖プロジェクト

皮膚老化を糖鎖から紐解く:糖鎖プロファイリング技術を利用した老化バイオマーカーの同定とその応用

 

身体の老化状態を知るには、視診や統計的データに依存する面が大きく、臓器の機能を反映した老化の診断基準はほとんど確立されていないのが現状です。老化予防の観点から、非侵襲で簡便に測定でき、細胞や組織の老化状態を早い段階で予測できるような機能的評価指標と、それに基づいた老化遅延法の確立が求められています。

細胞表面の糖鎖は「細胞の顔」とも呼ばれるように、細胞の種類や状態によってダイナミックに変化することが知られています。血液型や腫瘍マーカーをはじめ、糖鎖の違いは優れたバイオマーカーとして幅広く利用されてきました。

私たちは、表皮幹細胞の加齢に伴い、膜タンパク質の糖鎖修飾パターンがダイナミックに変化する「グライコームシフト」が起こることを発見しました(Aging Cell, 2020)。タンパク質を修飾する糖鎖は、細胞のシグナル応答性や細胞外マトリクスとの相互作用、細胞間コミュニケーションなどに働くことが知られていますが、糖鎖修飾の制御メカニズムや機能的役割については不明な点が多く残されています。現在は、表皮幹細胞における糖鎖の役割を解明することで、糖鎖を基軸とした老化制御を目指し研究を進めています。

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研究成果の発表

学会や研究会などで、成果を発表しディスカッションすること、最新の研究に触れて刺激を受けること、世界中の研究者と出会うこと、研究者の醍醐味ではないでしょうか。私たちの研究室では、以下の学会等によく参加しますが、その他、学内外のミーティングにも積極的に足を伸ばし、ネットワークを広げていきたいと思っています。どこかで姿を見かけたらぜひお声がけください。

 

​Gordon Research Conference (GRC):Epithelial Differentiation and Keratinization(皮膚科学)とEpithelial Stem Cells and Niches(上皮幹細胞)のGRCにそれぞれ隔年で参加しています。

https://www.grc.org

The International Society for Stem Cell Research (ISSCR) https://www.isscr.org

The International Society for Regenerative Biology (ISRB) 

https://internationalsocietyforregenerativebiology.org

幹細胞シンポジウム:幹細胞分野の研究者が集まるシンポジウムで。若手の会「つくしの会」もあります。

http://stem-cell.jp/history.html

皮膚の会:皮膚の会は、皮膚を研究対象とする基礎、臨床、企業の研究者など、多様な研究者が集まることで、学際的な研究や議論を活発化することを目的として作られた小規模なコミュニティです。

https://aisada428.wixsite.com/skin-research-club

日本発生生物学会(JSDB)http://www.jsdb.jp

日本分子生物学会(MBSJ)https://www.mbsj.jp

日本研究皮膚科学会(JSID)http://www.jsid.org

日本再生医療学会(JSRM)https://www.jsrm.jp

日本生化学会(JBS)http://www.jbsoc.or.jp

Scienc-ome:ハイレベルなオンラインフォーラム

https://www.scienc-ome.com

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