前職の筑波大学でメンターをしていた博士学生の石井柳太郎さんが中心となって進めてくれた眼上皮幹細胞のプロジェクトが論文になりました。 Ishii R, Yanagisawa H*, Sada A*: Defining compartmentalized stem cell populations with distinct cell division dynamics in the ocular surface epithelium. Development, 147(24):dev197590, 2020. *Corresponding authors. https://doi.org/10.1242/dev.197590
石井さんは、筑波大学の2020年医学優秀論文賞(医学奨励賞)を受賞され、2021年3月に学位を取得しました。おめでとう!博士課程、よく頑張りましたね。
皮膚の表皮と、眼の角結膜は、同じ外胚葉由来の上皮で、似ているところもあり、違うところもあり・・・。上皮幹細胞やニッチの共通性・多様性を、明らかにしていければと思います。
論文要旨
眼表面上皮に位置する角結膜幹細胞は、上皮組織の恒常性維持や損傷修復に重要な役割を担うとともに、再生医療の細胞ソースとしても着目されている。眼表面上皮は角膜と結膜からなり、角結膜境界部の輪部とよばれる部分に長期的ラベル保持細胞(LRC)として検出される細胞分裂頻度の低い幹細胞が局在することが示唆されている。アルカリ外傷などで輪部の幹細胞に障害が起こると、角膜が白い結膜様の細胞に覆われ結膜化する。結膜上皮においては、円蓋部にLRCが観察される。しかしながら、角結膜どちらとも特異的な幹細胞マーカーは報告されておらず、恒常性維持や障害の過程における上皮幹細胞の局在や挙動は不明であった。
我々はこれまでに、マウス皮膚の表皮に存在する分裂頻度の異なる2種類の幹細胞のマーカーとして、Slc1a3、Dlx1を同定した(Sada et al., Nat Cell Biol 2016)。眼上皮において解析を行ったところ、Slc1a3-CreERはLRCが局在する角膜輪部と結膜円蓋部を、Dlx1-CreERとK14-CreERはnon-LRC領域を標識することが分かった。長期的な細胞系譜解析により、角膜輪部には角膜中央部に向かって移動し角膜全体に寄与する集団と、輪部のみで水平方向へ拡大する集団の2種類が存在することが示された。輪部上皮の物理的損傷後、水平方向へ拡大するクローンが増加した。一方、結膜においては、3つのコンパートメント(結膜円蓋部、眼球結膜、眼瞼結膜)がそれぞれの領域に存在する幹細胞集団によって、長期的に維持されることが示された。これらの結膜幹細胞はアルカリ外傷後、角膜へと寄与し、結膜化を引き起こしていることが明らかになった。このように本研究では、角結膜を再生する不均一な幹細胞集団を標識するマウスツールによって、in vivoにおける幹細胞動態を解明した。将来的には、スティーブンスジョンソン症候群やアルカリ外傷に伴う角膜幹細胞障害や結膜化の抑制等へ繋がることが期待される。
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